舗装工事会社のM&Aで「会社を譲渡した後も、公共工事を同じように続けられるのか」は、譲渡企業と譲受企業の双方が最初に確認すべき論点です。結論からいえば、建設業許可、経営事項審査(経審)、発注機関ごとの入札参加資格、技術者と従業員の在籍は、それぞれ別の制度です。どれか一つを確認しただけでは、受注の継続性を判断できません。
また、株式譲渡と、事業譲渡・合併・会社分割では手続の考え方が異なります。本稿では、舗装工事会社の経営者がM&Aの初期段階で確認できるよう、四つの確認を順番に整理します。制度の最終判断は、所管行政庁、発注機関、行政書士や弁護士などの専門家へ個別に確認してください。
この記事の結論
- 株式譲渡では許可を受けた法人自体が存続しますが、役員変更、営業所技術者等の要件、経審の有効期間、入札参加資格の届出は別に確認します。
- 事業譲渡・合併・会社分割では、建設業法上の事前認可により建設業者としての地位を承継できる制度があります。自動承継ではなく、承継者が許可要件を備える必要があります。
- 経審の結果と入札参加資格は同じものではありません。自治体などの入札参加資格が自動的に移るとは限りません。
- 許可や経審の手続が整っても、営業所技術者等、主任技術者・監理技術者、職長、オペレーターが残らなければ施工体制は維持できません。
まず区別したい四つの制度
舗装工事会社の公共工事は、次の四段階がそろって初めて継続性を説明できます。買い手によるデューデリジェンス(買収前調査)でも、この順番で確認すると抜け漏れを減らせます。
| 確認対象 | 主な役割 | M&Aでの確認事項 |
|---|---|---|
| 建設業許可 | 一定規模以上の建設工事を請け負うための許可 | 許可主体、業種、一般・特定の区分、有効期間、承継方法 |
| 経営事項審査 | 公共工事を直接請け負う建設業者の客観的な審査 | 審査基準日、結果通知、有効期間、承継時の取扱い |
| 入札参加資格 | 各発注機関の名簿登録、等級・格付け | 発注機関ごとの変更届、再認定、契約中案件の扱い |
| 人と施工体制 | 許可要件と実際の現場運営を支える | 営業所技術者等、現場配置技術者、職長、オペレーターの在籍と役割 |
国土交通省は、経審を、公共工事を発注者から直接請け負おうとする建設業者が受ける審査と説明しています。一方、競争入札参加資格は各発注機関が別に審査し、客観的事項と主観的事項などを用いて順位や格付けを行います。したがって「経審結果があるから、現在の入札資格もそのまま続く」とは判断できません。
株式譲渡と事業譲渡では許可の考え方が異なる
株式譲渡:許可を受けた法人は存続する
株式譲渡では、株主が変わっても、許可を受けた法人そのものは存続します。そのため、事業譲渡・合併・会社分割に設けられた「建設業者の地位の承継」とは異なる整理になります。ただし、株式譲渡なら何も確認しなくてよいわけではありません。
- 役員変更など、建設業許可上の変更届が必要になる事項
- 営業所技術者等が承継後も常勤し、許可要件を満たせるか
- 経審結果の有効期間が途切れない更新日程になっているか
- 各発注機関の入札参加資格で、資本関係・役員・代表者などの変更届が必要か
- 工事契約、融資、リース、保険などに支配権変更条項がないか
特に代表者が営業所技術者等や現場のキーパーソンを兼ねている会社は、株式譲渡後の退任時期を先に決めると危険です。許可要件と現場の引き継ぎが両立する期間を確認してから、退任日とクロージング日を設計します。
事業譲渡・合併・会社分割:事前認可制度を確認する
建設業法第17条の2に基づき、事業譲渡・合併・会社分割について、事前の認可を受けることで建設業者としての地位を承継できる制度があります。2020年10月に始まった制度で、認可を受けるには承継者が許可要件等を備えていることが必要です。
ここで重要なのは、許可証だけを物のように譲り渡す制度ではないことです。国土交通省の案内では、事業譲渡の場合、建設業に関する事業の全部譲渡が前提とされ、許可業種の一部だけを選んで承継することはできないとされています。譲渡企業が舗装工事業のほか土木工事業、とび・土工工事業などの許可を持つ場合は、許可全体を一覧にしてからスキームを検討します。
また、承継元と承継先が同じ業種について一般建設業と特定建設業の異なる許可を持つ場合など、事前の廃業届や組み替えが必要になるケースがあります。所管行政庁によって申請時期や事前相談の運用が異なるため、基本合意の後ではなく、スキームを比較する段階で相談するのが安全です。
営業所技術者等と現場配置技術者を分けて確認する
舗装会社のM&Aでは「資格者が何人いるか」だけでなく、誰がどの制度上の役割を担っているかを分けます。営業所技術者等は許可営業所における許可要件を支える人であり、個別工事に置く主任技術者・監理技術者とは役割が異なります。さらに、現場代理人、職長、フィニッシャーのオペレーター、ローラー担当、施工管理担当も、実施工を維持するうえで欠かせません。
| 区分 | 確認する内容 | 資料例 |
|---|---|---|
| 営業所技術者等 | 許可業種、常勤性、資格・実務経験、承継後の配置営業所 | 営業所技術者等一覧、資格証、雇用関係資料 |
| 主任・監理技術者 | 配置中・受注予定の工事、専任の要否、雇用期間 | 工事台帳、配置技術者一覧、CORINS登録内容 |
| 現場運営人材 | 見積、段取り、交通規制、品質管理、近隣対応の担当 | 組織図、職務分担表、施工手順書 |
| 技能者・オペレーター | 班編成、保有資格、担当機械、代替要員 | 資格一覧、班編成表、重機台帳 |
公共工事の専任の主任技術者・監理技術者等については、原則として入札申込日前に一定の雇用関係が求められます。ただし、合併・営業譲渡・会社分割などの組織変更では、変更前の会社での雇用期間を考慮する取扱いがあります。「M&A後は必ずゼロから3か月待つ」「株式譲渡なら全く確認不要」といった一律の説明は避け、発注機関と工事ごとに確認します。
なお、事業譲渡では労働契約の移転に原則として労働者本人の個別承諾が必要です。建設業法上の承継手続が進んでも、技術者や技能者の雇用が自動的に移るわけではありません。秘密保持に配慮しながら、誰へ、どの段階で、どの条件を説明するかを労務の専門家と設計します。詳しくは技術者・職長・オペレーターの承継設計もご覧ください。
経審は「点数」ではなく有効期間と内訳を見る
経審は、公共工事を直接請け負う建設業者について、経営状況、経営規模、技術的能力などを客観的に評価する制度です。総合評定値のP点だけを見ると、承継後に同じ受注力を維持できるかを見誤ります。
- 審査基準日と結果通知書の有効な請負期間
- 舗装工事・土木一式など業種別の完成工事高
- 元請完成工事高と技術職員数
- 自己資本、利益額、経営状況分析結果
- 社会性等の評価項目と建設機械の保有状況
国土交通省の競争参加資格案内では、公共工事を継続して直接請け負うため、審査基準日から1年7か月の期間が切れ目なく続くよう、毎年経審を受ける必要があると説明されています。M&Aのクロージング前後に決算期や申請時期が重なる場合は、通常の更新と承継時の手続を一枚の工程表にします。
合併や事業譲渡等では、通常の決算日とは異なる日を審査基準日とする取扱いや、一定の要件のもとで承継時の経審を受ける取扱いがあります。ただし、両社のP点を単純に足す制度ではありません。完成工事高、技術職員数、財務数値などは項目ごとの算定方法があるため、許可行政庁へ事前に確認します。経審の整理方法は経審P点・完成工事高・技術職員数を売却準備で整えるで詳しく解説しています。
2026年7月改正:アスファルト・フィニッシャも経審資料に加える
舗装工事会社にとって見落とせない変更として、2026年7月1日から、アスファルト・フィニッシャが経審の「建設機械の保有状況」の対象に加わりました。M&Aの資料確認では、フィニッシャーを持っているかだけでなく、審査基準日時点の所有・リース状況、契約期間、検査の有効性など、経審で確認される根拠資料までそろえます。
対象機械は合計台数に応じて評価されるため、フィニッシャーを1台持っているだけで入札ランクが自動的に上がるわけではありません。一方、現場で実際に稼働している機械の整備履歴、年間稼働日数、修繕予定、更新投資額を経審資料と重機台帳でつなげると、買い手は取得後の施工能力と投資負担を判断しやすくなります。関連してフィニッシャー・ローラー等の重機台帳の整え方も確認してください。
入札参加資格は発注機関ごとに確認する
自治体や国の機関などが設ける入札参加資格は、建設業許可や経審とは別の手続です。認可によって建設業者としての地位や経審結果が承継される場合でも、各発注機関の有資格者名簿、等級、主観点、地域要件、契約中工事が自動的に同じ条件で続くとは限りません。
例えば大阪府は、合併・会社分割・事業譲渡等に伴う建設工事の入札参加資格について、事前ヒアリングや再認定の手続を案内しています。実務では、売上上位の発注機関だけでなく、登録している全発注機関を一覧化し、次の事項を個別に確認します。
- 商号、代表者、所在地、資本関係などの変更届
- 合併・分割・事業譲渡時の再認定や資格承継の可否
- 等級・格付け、地域要件、主観点の再計算
- 入札中、落札後、施工中、保証期間中の各案件の取扱い
- 電子入札の利用者登録、ICカード、委任先営業所の変更
公共工事比率が高い会社は、発注機関別の売上・粗利と資格の更新月を並べると、どの手続の遅れが事業へ大きく影響するかが見えます。公共工事中心の舗装会社を売却する時の評価ポイントもあわせてご覧ください。
クロージング前に作る実務チェックリスト
次の表は初回整理用です。必要書類と手続は許可行政庁、発注機関、取引内容によって異なります。
| 時期の目安 | 確認すること | 主な成果物 |
|---|---|---|
| スキーム比較時 | 株式譲渡、事業譲渡、合併、会社分割の違いを確認 | 許可業種一覧、一般・特定区分、営業所一覧 |
| 基本合意前後 | 所管行政庁へ事前相談し、認可・届出・経審の日程を確認 | 行政手続工程表、必要資料一覧 |
| 買収前調査 | 技術者、工事台帳、完成工事高、重機、入札資格を照合 | 人員配置表、案件一覧、重機台帳、発注機関一覧 |
| 最終契約前 | 雇用承継、取引先説明、契約・保証・保険の扱いを確定 | 説明計画、同意・通知書類、前提条件一覧 |
| クロージング後 | 認可条件資料、変更届、入札資格、電子入札登録を確認 | 提出控え、受理記録、更新カレンダー |
会社全体の初期確認は舗装工事会社のM&Aで最初に整理する7つの論点も参考にしてください。許認可だけでなく、工事台帳、未成工事、元請・下請比率、合材調達、資材置場まで一緒に整理すると、買い手へ事業の継続性を説明しやすくなります。
許可・経審・入札の相談記録を一つにまとめる
手続きの窓口と締切を同じ一覧で管理し、取引形態や予定日が変わったら回答の前提を確認し直します。特定の日数で手続きが終わると仮定せず、必要資料と審査期間をそれぞれの窓口へ確認してください。
| 相談先・対象 | 相談する時点 | 記録する内容 |
|---|---|---|
| 建設業許可の行政庁 | 事業譲渡・合併・分割等の計画段階 | 取引の形、承継対象、希望日、事前認可・届出の確認 |
| 経営事項審査の窓口 | 承継後の審査計画を立てる段階 | 特別な扱いの有無、分析申請前の相談、必要書類 |
| 各発注機関・入札担当 | 資格や指名の継続を確認する段階 | 対象資格、審査時期、提出先、結果の確認方法 |
| 工事契約の発注者 | 個々の契約上の対応を決める段階 | 承諾・届出等の要否、施工・支払・保証の扱い |
国土交通省は、事業譲渡・合併・分割等について事前認可による建設業者の地位承継の制度を案内しています。経審については、関東地方整備局が合併・譲渡・分割等の場合に経営状況分析申請前の相談を案内しています。適用される手続きは許可行政庁等に確認します。
参照:国土交通省「建設業の事業承継」 / 関東地方整備局「経営事項審査の申請手続き」(2026年9月8日確認)
よくある質問
株式譲渡なら建設業許可の承継認可は不要ですか
一般に、株式譲渡では許可を受けた法人自体が存続するため、事業譲渡・合併・会社分割の地位承継認可とは異なる整理になります。ただし、役員等の変更届、営業所技術者等の要件、経審の更新、入札参加資格の届出は別途確認が必要です。
譲渡企業様の許可から舗装工事業だけを選んで承継できますか
事業譲渡等の事前認可では、原則として被承継者の建設業の全部を承継する必要があります。一部業種だけを選ぶ前提で進めず、譲渡企業と買い手の全許可業種、一般・特定区分を所管行政庁へ示して相談してください。
経審が承継されれば入札参加資格も自動的に移りますか
自動的に同条件で移るとは限りません。入札参加資格の承継、再認定、変更届は発注機関ごとに異なります。国、都道府県、市区町村、外郭団体など登録先を一覧化し、個別に確認します。
M&A後は配置技術者の3か月要件を最初から数え直しますか
組織変更の類型や工事によって取扱いが異なります。合併・営業譲渡・会社分割等では変更前の雇用期間を考慮する取扱いがありますが、すべてのケースに一律適用されるとは限りません。発注機関と所管行政庁へ個別に確認してください。
許可や入札資格の整理は、譲渡価格にも影響しますか
許可そのものを単独で値付けするのではなく、承継後も受注・施工・請求を継続できる確度として評価されます。更新切れ、キーパーソンの退職、入札資格の再認定が未確認であれば、買い手は売上計画を保守的に見積もります。反対に、手続工程と人員計画が整理されていれば、条件交渉の不確実性を減らせます。
まとめ:許可、経審、入札、人を一つの工程表にする
舗装工事会社のM&A後に公共工事を続けられるかは、建設業許可だけでは判断できません。許可の承継方法、経審の有効期間、発注機関ごとの入札参加資格、営業所技術者等と現場人材の在籍を、一つの工程表で確認する必要があります。
特に事業譲渡・合併・会社分割では、所管行政庁への事前相談がスケジュールを左右します。株式譲渡でも、代表者や技術者の退任を先に決めず、工事・入札・許可の継続条件を確認してから引き継ぎ期間を決めることが重要です。
自社の許可・経審・入札資格を匿名で整理できます
譲渡を決める前の段階でも、会社名を伏せて、許可業種、公共・民間比率、人員体制、重機、主な発注機関から確認できます。譲渡企業様は、着手金・中間金・月額報酬・成功報酬を含めて手数料0円です。
参照した一次資料
確認日:2026年8月7日。制度や申請様式は改正されることがあるため、実行時点の所管行政庁・発注機関の案内を必ず確認してください。

