舗装会社のM&A(合併・買収)では、フィニッシャーやローラーを何台持っているかだけでは、機械の承継価値を説明できません。買い手が知りたいのは、対象会社がその機械を本当に所有・使用できるのか、必要な検査と整備が行われ、譲渡後も予定どおり現場へ投入できるのかという点です。
2026年7月1日以降の経営事項審査(経審)申請では、その他の審査項目(社会性等)の「建設機械の保有状況」(W7)について、加点対象に不整地運搬車とアスファルト・フィニッシャが追加されました。舗装会社にとって重要な改正ですが、フィニッシャーを1台持っていれば一律に高く評価される、あるいは譲渡後も同じ点数が自動的に維持される、という意味ではありません。
本稿では、会社譲渡を検討する経営者が、重機台帳、固定資産台帳、車検証、売買・リース契約、検査記録、修理履歴をどの順番で突き合わせればよいかを整理します。法令や経審の個別判断は、所管行政庁、社会保険労務士、行政書士、弁護士などの専門家へ確認してください。
この記事の要点
- 2026年7月1日以降の経審申請では、W7の対象機械に不整地運搬車とアスファルト・フィニッシャが追加されました。
- アスファルト・フィニッシャは、車検証の車体の形状欄に「アスファルト・フィニッシャ」と記載された大型特殊自動車が新たな評価対象です。
- 経審では、自社所有または一定期間以上のリースであることに加え、必要な検査が行われていることを資料で確認します。
- M&Aにおけるデューデリジェンス(買収前調査)では、経審資料だけでなく、機番、所有権、残債、修繕、稼働、代替機まで1台ずつ確認します。
- 経審の加点、会計上の簿価、中古市場価格、現場で稼ぐ力は別の評価軸です。混同せずに説明することが重要です。
2026年の経審改正でアスファルト・フィニッシャが対象に追加
対象拡大は2026年7月1日以降の申請に適用
国土交通省が公表した改正資料では、地域の災害対応力を評価する観点から、W7の加点対象へ「不整地運搬車」と「アスファルト・フィニッシャ」が追加されました。アスファルト・フィニッシャは、道路運送車両法に基づく自動車検査証の車体の形状欄に、その名称が記載されている大型特殊自動車が対象とされています。
W7は、既存の対象機械と今回追加された機械を含む保有台数に応じて評価する仕組みです。国土交通省の概要資料では、14台以上の場合に最大15点とされています。したがって、フィニッシャー1台だけで15点になるわけではありません。対象機械の範囲と台数、申請基準日、証拠資料をそろえて確認する必要があります。
所有・リース・検査済みを資料で示す
国土交通省建設業課の事務連絡では、審査基準日時点で自ら所有しているか、審査基準日から1年7か月以上の使用期間を定めたリース契約を締結しており、必要な検査が行われている機械を評価対象としています。申請時の資料として、売買契約書またはリース契約書の写しと、特定自主検査記録表または自動車検査証の写しが示されています。
ただし、アスファルト・フィニッシャに特定自主検査が一律に必要という意味ではありません。経審の確認資料は機械の区分に応じて異なり、今回追加されたアスファルト・フィニッシャは自動車検査証の写し、不整地運搬車など該当する機械は特定自主検査記録表の写しを用いる整理です。対象区分と必要書類は、申請先の所管行政庁へ機番単位で確認します。
譲渡企業は、直近の経審結果通知書だけを見るのではなく、申請時にどの機械を計上し、どの契約書・検査記録を添付したかまで保管しておくと説明が明確になります。譲渡後の申請主体、審査基準日、所有・リース条件が変わる場合があるため、現在の加点がそのまま自動承継されるとは限りません。
株式譲渡では申請法人自体は存続しますが、役員個人所有の機械や、支配権の変更時に承諾を求める条項があるリース契約は別途確認が必要です。事業譲渡や会社分割では、機械の所有権、契約上の地位、検査資料の移転を個別に整理します。
M&Aで重機台帳を確認する目的
重機台帳の目的は、機械を高く見せることではありません。「帳簿に載っている機械」と「譲渡後に使用できる機械」の差をなくし、必要な更新投資、修繕費、資金負担、施工能力を見通せるようにすることです。
舗装現場では、フィニッシャー、マカダムローラー、タイヤローラー、タンデムローラー、グレーダー、散水車、ダンプ、回送車、切削機、カッターなどが連動します。主力機が1台止まるだけでも、外注手配、回送、夜間規制、合材到着時間に影響することがあります。保有台数ではなく、どの工種をどの編成で施工できるかを確認することが大切です。
買い手は、固定資産台帳の簿価だけでなく、現物の有無、使用権限、点検状態、更新時期、担当オペレーター、代替可能性を確認します。譲渡企業が弱点も含めて整理していれば、価格調整だけでなく、譲渡前の修理、リース承継、代替機の確保、譲渡後の設備投資計画まで早い段階で話し合えます。
重機台帳に最低限そろえたい項目
重機台帳は、1台につき1行で検索できる形にします。社内の呼び名だけでは、契約書や車検証、検査記録と結び付きません。機番や車台番号など、資料を横断して照合できる識別情報を中心に設計します。
| 確認区分 | 台帳へ記載する項目 | 主な証拠資料 |
|---|---|---|
| 識別 | 社内管理番号、機械名、メーカー、型式、製造番号・機番、車台番号、登録番号 | 銘板写真、車検証、検査記録 |
| 権利 | 自社所有、割賦、リース、レンタル、役員・関係会社所有の別 | 売買契約、リース・割賦契約、請求書 |
| 会計 | 取得日、取得価額、帳簿価額、減価償却、残債、売却・除却予定 | 固定資産台帳、総勘定元帳、借入明細 |
| 検査・整備 | 適用制度、前回検査日、次回期限、検査者、指摘、修理完了日 | 検査記録、検査標章、整備請求書 |
| 稼働 | 稼働時間、配置班、保管場所、主な工種、繁忙期の使用状況 | 日報、配車表、工事台帳、稼働記録 |
| 費用・リスク | 年間修繕費、保険、事故・故障、部品供給、次回大型修繕、代替機 | 修理履歴、保険証券、事故記録、見積書 |
写真は、機械全景、銘板、車台番号、稼働時間計(アワーメーター)、検査標章、損傷部位をできるだけ同じ日に撮影し、各画像に撮影日を残します。撮影日を台帳の基準日に近づけ、日付が異なる場合はその差を明記すると、買い手の現地確認で「どの時点の、どの機械の資料か分からない」という混乱を避けやすくなります。
検査記録は機械の区分ごとに確認する
年1回の特定自主検査と月1回の定期自主検査を分ける
厚生労働省は、特定自主検査について、不適切な検査事例などを踏まえ、厚生労働大臣が定める基準に従って行う仕組みへ改めました。車両系建設機械の特定自主検査基準は、2026年1月1日から適用されています。これは検査制度を新たにゼロから作ったというより、従来の指針を踏まえた検査方法・判定基準を、遵守すべき基準として位置付けた改正です。
労働安全衛生規則第167条は、車両系建設機械について1年以内ごとに1回の定期自主検査を定めており、この検査が同規則第169条の2にいう特定自主検査です。これとは別に、第168条は1か月以内ごとに1回の定期自主検査を定めています。両検査の記録は、第169条に基づき3年間保存する必要があります。ローラーは労働安全衛生法施行令別表第7の「締固め用機械」に掲げられています。一方で、舗装会社が保有するすべての機械を一括して同じ検査対象と考えることはできません。機械の構造、用途、法令上の区分に応じて、対象となる検査と必要資格を個別に確認します。
「標章がある」だけで終わらせない
買い手の確認では、検査標章の有無だけでなく、検査記録に記載された指摘事項と修理完了を追います。たとえば、油漏れ、制動、散水、振動装置、警報、灯火、タイヤ・ドラム、油圧系統に指摘があった場合、修理請求書や再確認記録と結び付けます。検査済みでも、未修理の指摘や長期停止があれば、取得後の追加支出や施工計画へ影響するためです。
検査記録が欠けている機械は、記録を作り直して整合させてはいけません。まず、検査業者、整備会社、リース会社、過去の請求書、標章、社内日報から事実を確認し、確認できた範囲と未解決事項を分けます。必要な再検査や修理は、有資格者や登録検査業者と相談して対応します。現時点で再検査を行っても、過去の未実施や保存義務の不履行が遡って解消されるわけではないため、欠落期間と是正日をそのまま記録します。
所有権・使用権は車検証と契約書で突き合わせる
電子車検証は券面だけで所有者情報が完結しない
国土交通省の電子車検証特設サイトによると、電子車検証の券面には、有効期間、使用者住所、所有者情報などが記載されないため、車検証閲覧アプリで確認できます。電子車検証が交付されている車両は、電子車検証本体を読み取り、自動車検査証記録事項をPDFなどで保存して、台帳の所有者・使用者、車台番号、有効期間と照合します。アプリから出力したPDFの電子署名は、電子データの状態で真正性を確認するためのものであり、印刷物では検証できません。
自動車検査証記録事項のPDF、売買・リース契約書、請求書には、個人名、住所、口座情報などが含まれる場合があります。匿名相談の段階では不要な個人情報をマスキングし、秘密保持契約(NDA)を結んだ後も、閲覧者と保存先を限定して共有します。
所有者と使用者が異なる場合、直ちに問題というわけではありません。割賦やリースでは一般にあり得るため、残額、契約満了、名義変更条件、中途解約、譲渡・支配権変更時の承諾、保険、税負担を契約書で確認します。役員個人や関係会社が所有している機械は、株式譲渡だけでは対象会社へ移らない可能性があるため、譲渡対象、賃貸継続、売買、代替調達を事前に決めます。
建設機械抵当は該当性と登記の有無を個別に見る
建設機械抵当法は、一定の建設機械について、所有権保存の登記や抵当権に関する仕組みを定めています。ただし、舗装会社の全機械に当然に登記があるわけではありません。対象機械か、登記があるか、金融機関の担保や譲渡制限があるかを個別に確認し、借入契約、登記事項、所有資料の内容をそろえます。
買い手が行う5段階の確認
- 台帳を一本化する:固定資産台帳、車両台帳、リース一覧、整備表を機番単位で統合します。
- 書類を照合する:車検証、売買・割賦・リース契約、検査記録、保険、経審申請資料を突き合わせます。
- 現物を確認する:保管場所で銘板、走行時間、標章、損傷、付属品を確認し、未確認機を分けます。
- 稼働と費用を検証する:工事台帳、配車表、修理費から、実際に使っている機械と更新投資を見積もります。
- 契約条件へ反映する:譲渡前修理、リース承継、担保解除、価格調整、表明保証、譲渡後の設備投資を整理します。
サンプル確認だけで済ませず、主力機、経審で申告した機械、残債のある機械、役員・関係会社所有の機械、長期停止機は全件確認するのが安全です。機械の数が多い場合も、重要度と例外を先に分けることで、現場を止めずに調査できます。
重機の価値を4つの軸に分ける
1.会計上の価値
固定資産台帳の取得価額と帳簿価額は、会計上の出発点です。簿価が低くても稼働状態が良い機械があり、簿価が残っていても修理や更新が必要な機械もあります。簿価だけで売買価格を決めません。
2.処分・調達の価値
中古市場価格、運搬費、売却手数料、撤去費、修理費、代替機の調達期間を見ます。見積もりは査定日と機械状態を明記し、将来価格を保証する資料として扱わないようにします。
3.施工能力を支える価値
主力機が、どの施工班、工種、発注者、売上・粗利に結び付いているかを確認します。オペレーターが限定される、繁忙期だけ外注する、故障時の代替がないといった条件まで含めて、譲渡後の再現性を評価します。人員承継は技術者・職長・オペレーター承継の整理も参照してください。
4.経審上の評価
経審のW7加点は、対象機械の保有状況を評価する制度上の指標です。企業価値や入札参加資格の維持そのものと同じではありません。経審全体の確認は建設業許可・経審・入札参加資格の承継と合わせ、申請基準日、機械台数、証拠資料、譲渡スキームを確認します。
譲渡前30日でできる整理
- 固定資産台帳、リース一覧、車両台帳から重機を抽出し、重複と漏れを確認する。
- 機番、車台番号、登録番号をキーに、契約書・車検証・検査記録をひも付ける。
- 経審申請で計上した機械に印を付け、申請時の添付資料をまとめる。
- 前回検査、次回期限、未修理の指摘、直近3期の修繕費を一覧化する。
- 役員・関係会社所有、担保、残債、承諾が必要なリースを先に洗い出す。
- 主力機ごとに担当オペレーター、施工実績、故障時の代替手段を記載する。
品質記録と重機の関係は、舗設温度・締固め度・平坦性・施工写真の整理も合わせて確認すると、機械の保有が施工品質の再現性へどうつながるかを説明しやすくなります。
匿名相談前のチェックリスト
- 台帳上の全機械について、現物の所在を確認できる。
- 自社所有、割賦、リース、レンタル、関係者所有を区別している。
- 経審W7で申告した機械と証拠資料が分かる。
- 車検証の所有者・使用者と契約当事者が一致するか確認している。
- 必要な検査の前回日、次回期限、指摘・修理状況が分かる。
- 直近3期の修繕費と、譲渡後3年程度の更新候補を説明できる。
- 主力機を扱えるオペレーターと代替体制を説明できる。
- 担保、残債、名義変更・譲渡承諾の未解決事項を隠さず整理している。
よくある質問
固定資産台帳があれば、重機の確認は十分ですか。
十分とは限りません。固定資産台帳は会計記録であり、現物の所在、現在の所有者・使用者、検査期限、リース承継、担保、稼働状態まで一つの資料で確認できるとは限らないためです。機番単位で契約・検査・現物を照合します。
アスファルト・フィニッシャを保有していれば経審で必ず加点されますか。
保有しているという説明だけでは判断できません。2026年改正では、車検証の車体の形状欄、所有・リース期間、必要な検査、申請基準日、提出資料などの要件があります。対象機械全体の台数で評価されるため、個別申請は所管行政庁へ確認してください。
検査記録が見つからない機械はどうすればよいですか。
記録を推測で埋めず、検査業者、整備会社、リース会社、請求書、標章から事実を確認します。確認不能な期間と現在の状態を分け、必要に応じて有資格者・登録検査業者へ再検査や整備を相談します。
古い重機が多いと譲渡に不利ですか。
年式だけでは決まりません。稼働、整備、部品供給、担当者、代替機、更新費を合わせて見ます。古くても適切に整備され施工を支える機械がある一方、停止が多く更新投資を要する機械もあります。強みと必要投資を分けて説明することが重要です。
まとめ
舗装会社の重機台帳は、単なる資産一覧ではありません。2026年の経審改正によってアスファルト・フィニッシャの証拠資料が一段と重要になりましたが、M&Aではそれに加えて、所有権、リース、検査、修繕、稼働、オペレーター、代替体制まで確認する必要があります。
まず、機番を中心に台帳と現物を一致させ、確認できた事実と未解決事項を分けてください。社名を開示する前の段階でも、機械の種類・台数、所有形態、経審計上の有無、検査・修繕状況を匿名化して整理できます。
一次資料
以下は2026年8月12日に内容を確認しました。

